昨日お父さんと喧嘩した。
きっかけは私が一人暮らしを始めたいと切り出したからだ。
高校3年生の私は来年度の春から大学生。
進学先のキャンパスは実家から電車で1時間の場所にある。家から通えない距離ではないけど、今通っている学校と比べたら2倍の通学時間だし、私は早起きが苦手なので近いに越したことはない。
そしてちょっとだけ一人暮らしという響きに憧れもあった。
大学生になったらもう大人なんだし、家のことを気にせず友達と居酒屋とかカラオケで夜遅くまではしゃいでみたいし、背伸びしたオシャレだってしたい。まだいないけど、彼氏とおうちデートとかしてみたり。
まだ決まったわけじゃないけど私の中で一人暮らしの想像は膨らむばかりだった。
だから昨日家族みんなで晩御飯を食べているとき、タイミングは今だろうと思って打ち明けた。
ご飯をかき込もうとしたお父さんの手が止まった。
「どうやって生活するんだ」「一人暮らしなんて無理だ」「家賃はどうするんだ」「ここから通えるだろう」
普段穏やかで物静かな父がこの夜はめずらしく饒舌だった。
なにかと否定されるたびに私は言い返す。けれど、お父さんの話は収まらない。
お互い徐々に熱くなってお母さんも仲裁に入ってくれたけど、お父さんの答えはずっとノーだった。
結局ムキになってしまった私は「お父さんなんて大嫌い!」と言い捨てて自分の部屋に籠った。
憧れの一人暮らしが遠のいてしまったからなのか、温厚なお父さんと柄にもなく喧嘩してしまったからなのか。
私はその晩、心がモヤモヤしてうまく寝付くことができなかった。
そして今朝もお父さんとは一言も話せないまま学校に来た。
元気は出ないし、授業ももちろん手につかない。
昨晩の出来事が私の頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
思い返せばそんなに喧嘩をするような内容でもなかったかもしれない。
お父さんにとって私は一人娘だし、心配事が尽きないのは自然なことだ。
このままの状態が続いたって一人暮らしの夢は余計遠のくばかりだろう。
帰ったら、ちゃんと話そう。
家に帰るとお父さんはリビングでテレビを観ていた。
どう切り出したものかと悩んでいると、テーブルの上にある資料に目が留まる。
すべて、私が進学する大学近辺の賃貸情報だった。
振り返ってみると、お父さんはテレビに映る相撲中継を静かに観ていた。
お父さんもずっとモヤモヤしていたのだろうか。
そんなことを考えると自然と少し口角が上がっていた。
さて、お父さんとちゃんと話そう。
まずはこの『女性限定物件』という条件を見直してもらわないとね。
まだ見ぬ彼氏とのおうちデートのためにも。